非居住者または外国法人に対して報酬などを支払う場合に、源泉所得税の源泉徴収が必要となる場合があります。
給与や個人の税理士報酬には源泉徴収が必要なことは認識していても、海外の支払に源泉徴収が必要な場合がある点を知らない方も多く、馴染みが薄い論点かもしれません。
今回は、非居住者または外国法人に対する源泉所得税の源泉徴収について確認していきます。
非居住者又は外国法人に支払う報酬の源泉徴収の概要
「非居住者」及び「外国法人」(以下、「非居住者等」と記載いたします。)に対して、国内において源泉徴収の対象となる「国内源泉所得」の支払をする場合には、支払の際に所得税及び復興特別所得税を源泉徴収し、日本の税務署に納付する義務があります。
非居住者等に支払う所得に関する源泉徴収税額は、原則として国内源泉所得の支払金額に一定の税率を乗じて求めた金額となります。
見慣れない用語が出てきていると思いますので、次項以降で用語の内容についてみていきます。
非居住者とは?外国法人とは?
非居住者や外国法人という用語は、税法で定められている用語です。
どういった人や法人が、非居住者や外国法人に該当するのかを以下の図に記載します。
個人に対する区分 | |
〇居住者 | ・永住者
国内に住所を有し、又は現在まで引き続いて1年以上居所を有する個人 |
・非永住者
居住者のうち、日本国籍を有しておらず、かつ、過去10年以内において国内に住所又は居所を有していた期間が5年以下である個人 |
|
〇非居住者 居住者以外の個人 |
個人に関して大まかにいうと、日本国内に住所を有していない外国人が非居住者ということになります。
法人に対する区分 | |
内国法人 | 国内に本店又は主たる事務所を有する法人 |
外国法人 | 内国法人以外の法人 |
外国法人とは、大まかにいうと日本国内に本店が所在していない法人ということになります。したがって、外国法人の子会社等で日本に設立された外資系法人は、内国法人ということになります。
国内源泉所得とは? 国内源泉所得の範囲と源泉徴収で適用される税率
国内源泉所得とは?
国内源泉所得とは、その所得の発生源泉地が国内にあるものをいいます。
日本の税法では、非居住者又は外国法人に対する課税については、課税の範囲を居住者や内国法人に対して狭く規定し、原則として課税対象とする所得を国内源泉所得に限ることとしています。(国内に恒久的施設がある場合などの例外があります。)
国内源泉所得の範囲と源泉徴収適用税率
源泉徴収の対象となる国内源泉所得の範囲と、源泉徴収の際に適用される日本国内法における税率(所得税及び復興特別所得税)は以下となります。
所得の区分 | 内容 |
組合契約事業利益の配分(所法161①四)
【税率:20.42%】 |
国内において組合契約に基づいて行う事業から生ずる利益(その事業から生ずる収入からその収入に係る費用(所法第161条第一号の三から第十二号までに掲げる国内源泉所得について源泉徴収された所得税及び復興特別所得税を含みます)を控除したもの)について、その組合契約に基づいて配分を受けるもの(所令281の2)。
この場合の「組合契約」とは、次に掲げる契約をいいます。 |
土地等の譲渡対価(所法161①五)
【税率:10.21%】 |
国内にある次に掲げる土地等の譲渡対価のうち、その土地等を自己又はその親族の居住の用に供するために譲り受けた個人から支払われるもの(譲渡対価が1億円を超えるものを除きます)以外のもの(所令281の3)
① 土地及び土地の上に存する権利 |
人的役務の提供事業の対価(所法161①六)
【税率:20.42%】 |
国内において行う人的役務の提供を主たる内容とする事業で、次に掲げる者の役務提供の対価(所令282)
① 映画、演劇の俳優、音楽家、その他の芸能人、職業運動家 |
不動産の賃貸料等(所法161①七)
【税率:20.42%】 |
国内にある不動産、不動産の上に存する権利若しくは採石権の貸付け、租鉱権の設定又は居住者若しくは内国法人に対する船舶・航空機の貸付けによる対価 |
利子等(所法161①八)
【税率:15.315%】 |
利子等のうち、次に掲げるもの
① 日本国の国債、地方債又は内国法人の発行する債券の利子 |
配当等(所法161①九)
【税率:20.42%】 |
配当等のうち、次に掲げるもの
① 内国法人から受ける剰余金の配当、利益の配当、剰余金の分配又は基金利息 |
貸付金の利子(所法161①十)
【税率:20.42%】 |
国内において業務を行う者に対する貸付金で、その業務に係るものの利子(所令283) |
使用料等(所法161①十一)
【税率:20.42%】 |
国内において業務を行う者から受ける次の使用料又は対価で、その業務に係るもの(所令284)
①工業所有権等の使用料又はその譲渡による対価 |
給与等の人的役務の提供に対する報酬等(所法161①十二)
【税率:20.42%】 |
① 俸給、給料、賃金、歳費、賞与又はこれらの性質を有する給与その他人的役務の提供に対する報酬のうち、国内において行う勤務その他の人的役務の提供に基因するもの(所令285①) ② 公的年金等(所令285②) ③ 退職手当等のうち受給者が居住者であった期間に行った勤務その他の人的役務の提供に基因するもの(所令285③) |
事業の広告宣伝のための賞金(所法161①十三)
【税率:20.42%】※50万円控除あり |
国内において行う事業の広告宣伝のために、賞として支払われる金品、その他の経済的利益 |
生命保険契約に基づく年金等(所法161①十四)
【税率:20.42%】※払い込まれた保険料又は掛金のうち、支払われる年金の額に対応する部分の金額 |
国内にある営業所等を通じて保険業法に規定する生命保険会社、損害保険会社の締結する保険契約等に基づいて受ける年金等(公的年金等を除きます) |
定期積金の給付補填金等(所法161①十五)
【税率:15.315%】 |
国内にある営業所等が受け入れたもので次に掲げるもの
①定期積金の給付補填金 |
匿名組合契約等に基づく利益の分配(所法161①十六)
【税率:20.42%】 |
国内において事業を行う者に対する出資のうち、匿名組合契約等に基づいて行う出資により受ける利益の分配(所令288) |
(出典:平成31年版源泉徴収のあらまし)
租税条約との関係
日本は世界各国と租税条約(各国が課税する上での取り決め)を締結しており、租税条約の内容と日本国内法との内容が異なる場合には、租税条約が優先して適用されます。
そのため、支払を受ける非居住者及び外国法人の居住地国と、日本との間に租税条約が締結されている場合には、注意が必要です。
租税条約が締結されており、条約上定められている税率が日本の国内法上の税率よりも低い場合には、その租税条約に規定されている税率(限度税率)に軽減されることになります。
この場合において、租税条約の適用により、限度税率が国内法(所得税法及び租税特別措置法)に規定する税率以下となるものについては、復興特別所得税を併せて源泉徴収する必要はありません。
国内法の税率の方が租税条約上の限度税率よりも低い場合では、国内法の税率を適用することになるため、復興特別所得税を併せて源泉徴収する必要があります。
その他、国内源泉所得の内容が修正される場合などもあるため、非居住者又は外国法人に対する源泉徴収を考える上では、租税条約の検討は必須項目となります。
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