個人事業主の方の中には、収入が複数ある方もいると思います。
収入から経費を差し引いた所得金額が赤字の場合には、所得の種類に応じて、他の黒字の所得から赤字の所得を差し引くことができる「損益通算」をすることができる場合があります。損益通算を行うと、総合的な所得を減らすことができます。
今回は損益通算の概要や対象範囲などを見ていきます。
確定申告における損益通算とは?【損益通算の概要】
損益通算とは、ある所得の黒字(利益)と他の赤字(損失額)を相殺する計算のことです。損益通算ができる(黒字の所得から差し引くことができる)所得は、以下の4つの所得の赤字に限られています。
損益通算の対象となる所得の損失
- 不動産所得
- 事業所得
- 山林所得
- 総合課税の譲渡所得
また、上場株式等に係る譲渡損失の金額も、特例として、申告分離課税を選択した上場株式等に係る配当所得の金額及び特定公社債等の利子所得の金額に限り損益通算することができます。
EX.
・不動産所得の損失額 ▲100万円
・給与所得金額 300万円
〇合計所得 ▲100万円 + 300万円 =200万円
確定申告における損益通算の対象となる具体的な損失の金額
損益通算を考える上では、どの所得の何の損失が対象になるのかを確認することが大切です。
具体的に、損益通算の対象となる損失は、以下に掲げる所得から生じた損失の金額となります。
損益通算の対象となる損失
- 不動産所得、事業所得、総合譲渡所得及び山林所得の損失の金額
- 居住用財産(マイホーム)の買換え等の場合の譲渡損失の金額
- 特定居住用財産(マイホーム)の譲渡損失の金額
- 上場株式等に係る譲渡損失の金額
1と4は上記でも触れましたが、2、3も損益通算の対象となる点に留意してください。
マイホームを譲渡する場合や買換えをする場合に譲渡損失が生じた場合には、一定の要件を満たせば他の所得と損益通算することができます。
確定申告における損益通算の対象とならない損失の金額【注意点】
以下に掲げる所得から生じた損失の金額は、損益通算の対象とはならないため注意が必要です。
配当所得、利子所得、給与所得、退職所得、一時所得及び雑所得の計算上生じた損失の金額
■利子所得及び退職所得は、所得金額の計算上損失が生じることはありません。配当所得、給与所得、一時所得及び雑所得の金額の計算上損失が生じることはありますが、その損失の金額は他の各種所得の金額から控除することはできません。
非課税所得の計算上生じた損失の金額
■生活用で使用していた動産の譲渡等により生じた損失の金額は、他の各種所得の金額から控除することはできません。
不動産所得の損失の金額のうち次に掲げる金額
- 土地(土地の上に存する権利を含みます。)を取得するために要した負債の利子に相当する部分の金額
- 生活に通常必要でない資産(別荘等)とされる一定の不動産に係る損失
- 一定の組合契約に基づいて営まれる事業から生じたもので、その組合の特定組合員に係るもの
譲渡所得の損失の金額のうち次に掲げる金額
- 生活に通常必要でない資産に係る譲渡損失の金額
生活に通常必要でない資産とは
- 競走馬、その他射こう的行為の手段となる動産(一定のものを除きます。)
- 主として趣味、娯楽、保養又は鑑賞の目的で所有する不動産
- 主として趣味、娯楽、保養又は鑑賞の目的で所有する不動産以外の資産(ゴルフ会員権等)
- 生活の用に供する動産で、1個又は1組の価額が30万円を超える貴金属、書画、骨とう等
- 個人に対して著しく低い価額で譲渡した場合の譲渡損失の金額
- 分離課税の譲渡所得の損失の金額(マイホームの買換え、譲渡損失等の場合の金額は除きます。)
- 株式等に係る譲渡所得等の損失の金額(上場株式等に係る譲渡損失の金額を除きます。)
- 先物取引に係る雑所得等の損失の金額
→申告分離課税の先物取引に係る雑所得等(例えばFX取引に係る所得)の金額の計算上生じた損失がある場合は、先物取引に係る雑所得等以外の所得の金額との損益通算はできませんので留意してください。
損益通算をするにあたって
損益通算には、ある所得の赤字をどの所得の黒字から相殺をかけていくかといった控除の順序があります。
また損益通算してもなお赤字が残る場合には、翌年以降にその赤字を繰越すことができる制度もあります。
このような制度は、対象となるものとならないものが複雑に規定されており、一朝一夕で理解することは難しいかもしれません。
損益通算の概要を確認した上で、ご自分が対象になりそうな場合には、税務署や税理士にご相談されることをお勧めいたします。