所得税の課税対象となる所得は、種類により区分され、それぞれの区分により課税所得の計算方法が異なることになるため、どの所得とされるかは重要です。
この所得区分については、明確に分かれていれば良いのですが、その区分が曖昧で判断に迷うものがあります。それが「事業所得」と「雑所得」です。
今回は、事業所得と雑所得の違いと判断基準について考えていきます。
事業所得とはなにか?雑所得とは?
事業所得とは、専門的な形でご説明しますと次のようなものを事業所得といいます。
事業所得
事業所得とは、自己の計算と危険において独立して営まれ、営利性、有償性を有し、かつ反復継続して遂行する意思と社会的地位とが客観的に認められる業務から生ずる所得をいいます。
簡単にいうと「農業、漁業、製造業、卸売業、小売業、サービス業その他の事業を営んでいる人のその事業から生ずる所得」をいいます。
一方、雑所得は、「他の9つの所得に該当しない所得」とされています。
つまり、どの所得区分にも属さないその他の所得を雑所得と言います。
事業所得と雑所得の計算方法の違い
事業所得となるか雑所得となるかで、課税所得の計算上、次のような違いがあります。
他の所得との損益通算
事業所得であれば、事業から赤字が生じた場合、その赤字と給与所得など他の所得と通算をすることができます。(これを「損益通算」といいます。)
その結果、事業所得の赤字と給与所得等の金額が相殺され、給与所得等の金額が小さくなることで税負担が軽減されたり、源泉徴収された金額が還付されることもあります。
一方で、雑所得では、赤字が生じたとしても、その赤字を給与所得など他の所得と通算することはできません。
青色申告特別控除・青色専従者給与等
事業所得であれば、正規の簿記の原則による帳簿作成をすることと税務署への届出をすることで、いろいろな税制上の特典のある「青色申告制度」を利用することが可能です。
特典の具体的な内容には、最大65万円の控除ができる「青色申告特別控除」や生計を一にする親族に対する給与でも必要経費に算入できる「青色専従者給与」、他の所得と通算をしても控除しきれない純損失について以後3年間に繰り越すことができる「純損失の繰越控除」などがあります。
詳細はこちらをご参照ください。
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一方で、雑所得では、青色申告制度の利用ができないため、これらの税制上の特典を利用することはできません。
事業所得と雑所得の計算方法の違いによる影響
上記で見てきたとおり、事業所得と雑所得では計算方法に違いがあります。
そのため、稼いだ金額が事業所得に該当するのか、雑所得に該当するかで、税金計算上に与える影響は大きいものとなります。
事業所得となるのか雑所得となるのかの判断基準【判例を基に】
その所得が「事業所得」となるのか「雑所得」となるのかの区別は、その所得の発生の原因となった経済活動が社会通念上事業といえるかとった点が重要になります。そのため、実際の判断では実にさまざまな要素を「総合考慮」して判断がされることになります。
ある経済活動が社会通念上事業といえるかどうかについて、判例では以下の事項を総合的に判断することになると述べています。
納税者の経済活動が、所得税法上の事業所得を生ずべき事業に該当するかどうかについては、以下の項目等を基に総合的に判断することになる。
- 対価を得て継続的に行われているかものかどうか。
- 自己の危険(責任)と計算において、独立的に営まれているものかどうか。
- 営利性・有償性を有し、かつ、反復継続して遂行する意思と社会的地位とが客観的に認められるかどうか。
- 社会通念上事業とみとめられるものかどうか。
さらに、その所得が「事業所得」となるのか「雑所得」となるのかの区別について争われたその他の裁判例の中では、次のような傾向があります。
- その経済活動の成果で「暮らしをたてることができる」 → 事業所得
- 本業の他に経済活動を行っている → 雑所得
- 投機性の強い(損失を生じやすい)経済活動で現に損失が生じている → 雑所得
このように判断基準に具体的な考慮要素が多数あげられていますが、特に所得獲得の「安定性」の有無が重視される例が多いため、事業所得とするためには安定性が認められることが重要であると考えられます。