不動産所得の計算では、それが「事業といえるもの」ものなのか、それとも「事業とはいえないもの(=業務)」ものなのかについて判断することは、とても重要です。
なぜかというと、「事業といえるもの」か否かにより、所得計算に重要な影響を及ぼすことになるからです。
今回はその判定の基準と所得計算による影響についてみていきます。
不動産所得の事業的規模とは?
不動産などの貸付けによる所得は、不動産所得になります。
不動産所得を生ずべき不動産等の貸付が、「事業的規模」か「事業的規模に至らない規模(=「業務的規模」といいます。)」かにより、不動産所得の金額の計算における各種取扱いが変わってきます。
この取扱いの違いは不動産所得の計算に大きく影響してきます。
不動産所得の事業的規模の判定
事業的規模の形式基準
事業的規模の判定は、原則として、社会通念上、事業と称する程度の規模で不動産貸付けを行っているかどうかにより判断することになりますが、次のいずれかに該当する場合には、特に反証がない限り事業として取り扱われることになります。
区分 | 貸付け規模 |
建物 |
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土地 |
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共有持ち分の場合の取扱い
自分の持分だけで判定するのか、共有者の部分も合わせて判定するのか、迷うところです。
実務上は共有者の持分も合わせた全体で判定できることとなっています。
不動産会社に一棟を一括貸付している場合の取扱い
例えば20室を一括貸付をしている場合には、一括で貸しているから1棟と判定するのではなく、あくまでも20室として判定することになります。
事業的規模の実質基準
実質基準として、賃貸料の収入の状況や貸付資産の管理の状況等からみて、先ほどの形式基準に準じる事情があると認められる場合には、事業として取り扱うことになります。
これは、例えば、いわゆる「5棟10室基準」を満たしてはいないものの、賃貸収入が比較的多く、不動産管理に係る役務の提供の事務量が大きい場合で、この事実を立証することが可能であれば事業的規模として認められることになると思われます。
ただし、この実質基準での判定の場合には、裁判例によると、「事業」所得としての性質として掲げられる各性質(営利性、有償性、反復・継続性、自己の危険と計算における事業遂行性、精神的・肉体的労力の程度、人的・物的設備の有無など)を総合的に判断することになるので、非常に難しいというのが実情です。
不動産所得の「事業」と「業務」における計算方法の違い
「事業的規模」か「業務的規模」かにより、変わってくる不動産所得の計算方法について、以下一覧にしてみていきます。
事業的規模 | 業務的規模 | |
資産損失、取壊し、除却、滅失等 | 損失の全額を損失の生じた年分の必要経費に算入する。 | 損失の金額を損失の生じた年分の不動産所得を限度として必要経費に算入する。 |
貸倒損失 | 賃貸料等の貸倒れによる損失は、貸倒れが生じた年分の必要経費に算入する。 | 賃貸料等の回収不能による損失は、収入に計上した年分までさかのぼって、その回収不能に対応する所得がなかったものとして、所得金額の計算をやり直し。 |
青色事業専従者給与 | 青色事業専従者に支払った給与のうち労務の対価として相当なものは、その年分の必要経費に算入する。 | 適用なし。 |
事業専従者控除 | 専従者1人につき最高50万円(配偶者である専従者については86万円)を必要経費に算入する。 | 適用なし。 |
青色申告特別控除 | 一定の要件を満たす場合には、最高65万円の控除が受けられる。 | 最高10万円の控除しか受けることができない。 |
貸倒引当金 | その年の12月31日において、貸金等に係る損失の見込み額として一定の金額を必要経費として算入することができる。 | 適用なし。 |
損益通算 | 計算上生じた損失は損益通算の適用対象となる。 | 計算上生じた損失は損益通算の適用対象となる。 |
最後に
不動産所得の事業的規模についてみてきましたが、判定の仕方(あいまいな部分がある点等)や、事業的規模に該当した場合の計算方法については、専門的な知識が必要とされることも多く、特に計算方法はかなり複雑です。
ご自分で調べて確定申告するとなると、多くの時間を費やすことになってしまいます。
なるべく確定申告に時間を割きたくないといった場合や、得られるメリットを最大限に活用したいといった場合には、税務署や税理士にご相談されることをお勧めいたします。