税理士が損害賠償を受けた最も多いミス事例は、消費税の簡易課税制度又は課税事業者に関する届出についてでした。
-
税理士職業賠償責任保険の保険事故事例からみる誤りやすい税務処理
税理士職業賠償責任保険という保険をご存知でしょうか? 税理士職業賠償責任保険は、税理士の過失等により依頼者に損害を与えた場合に、その依頼者から受けた損害賠償請求を補填するための損害保険の ...
続きを見る
今回はこのうち消費税の簡易課税制度について、制度内容と注意事項について再確認して、簡易課税制度をマスターしていきたいと思います。
簡易課税制度とはどんな制度か?
消費税の納税額の算出方法は、売上に係る消費税額(課税売上げに係る消費税額)から、仕入や経費に係る消費税額(課税仕入れに係る消費税額)を控除することにより計算されることが原則とされています。
簡易課税制度とは、この原則的な計算方法によらずに、課税売上げに係る消費税額に業種ごとに定められたみなし仕入率を掛けることで、控除することができる「課税仕入れに係る消費税額」を計算します。
実際に生じた課税仕入れに係る消費税額を計算する必要がなく、課税売上げに係る消費税額を把握することができれば、消費税の納税額が算出可能なことから、原則計算に比べ簡便的な計算手法になります。
簡易課税制度の特徴
〇一度、簡易課税制度の適用を受けると、2年間又は2事業年度間の間は、継続して適用する必要があります。(例外もあります。)
〇課税売上に係る消費税額のみを押さえれば、申告すべき消費税額が算出できるため、時間を掛けずに確定申告が行うことができます。
〇経費や費用のうち、課税仕入れに係る消費税額の対象とならないもの(人件費、減価償却費等)が多い場合には、簡易課税制度の適用を受けることで、納税額を減らすことができます。
〇「課税売上げに係る消費税額×みなし仕入率(90%~40%)=課税仕入れに係る消費税額」という計算式からも分かるとおり、課税仕入れに係る消費税額は課税売上げに係る消費税額を超えることはありえません。
そのため、例え多額の仕入・経費、大きな設備が生じ、実際の課税仕入れに係る消費税額が多額になったとしても還付を受けることができません。
適用を受けるため・適用をやめるときの要件
〇簡易課税制度による消費税の計算をするためには、次の要件のすべてを満たす必要があります。
・課税期間の前々年又は前々事業年度の課税売上高が5,000万円以下である。
・簡易課税制度の適用を受ける旨の届出書を事前に提出している。
〇簡易課税制度による消費税の計算をやめるためには、次の要件を満たす必要があります。
・簡易課税制度の適用をやめる旨の届出書を事前に提出している。
なお、課税期間の前々年又は前々事業年度の課税売上高が5,000万円を超えている場合には、自動的に簡易課税ではなく原則計算となりますが、適用を受ける旨の届出の効力は、適用をやめる旨の届出を提出しない限り生き続けることになります。
簡易課税制度選択届出書の提出期限と効力発生日
この制度の適用を受けるために必要な届出=「消費税簡易課税制度選択届出書」は、原則として適用しようとする課税期間の開始の日の前日までに提出することが必要です。
簡易課税制度選択不適用届出書の提出期限と効力発生日
この制度の適用をとりやめて原則による消費税の計算を行いたい場合には、原則として、やめようとする課税期間の開始の日の前日までに「消費税簡易課税制度選択不適用届出書」を提出する必要があります
なお、簡易課税制度選択届出書を提出している場合であっても、基準期間の課税売上高が5,000万円を超える場合には、簡易課税制度の適用はできず、原則計算となります。
簡易課税制度適用に関する届出の例外
〇「消費税課税事業者選択届出書」を提出して課税事業者となっている場合や新設法人に該当する場合で調整対象固定資産(一取引単位の取得価額(税抜金額)が100万円以上の固定資産)の仕入れ等を行った場合は、一定期間「消費税簡易課税制度選択届出書」を提出できないという例外があるため留意してください。
〇消費税を納める義務があり、原則計算にて消費税を計算している課税期間中に高額特定資産(一取引単位の取得価額(税抜金額)が1,000万円以上の棚卸資産又は一取引単位の取得価額(税抜金額)が100万円以上の固定資産)の仕入れ等を行った場合には、その高額特定資産の仕入れ等の日の属する課税期間(α課税期間)の翌課税期間から、α課税期間の初日以後3年を経過する日の属する課税期間までは、簡易課税制度の適用ができませんので留意してください。
届出の提出にあたって留意すること
〇まず、以前に簡易課税に関する届出が提出されているかどうかは必ず確認をお願いいたします。
自分は提出していないと思っていても、忘れていたり、顧問税理士が提出していたりする場合もあります。
記憶が定かでない場合には、税務署でも確認が取れますので確認をお願いいたします。
〇届出の提出期限でみたとおり、簡易課税制度の適用を受けたい又はやめたい課税期間の前期末まで(個人の場合には前年末)に提出する必要があります。
決算期末(個人の場合は年末)までに、翌期(又は翌年)に簡易課税制度の適用を受けるかどうかを判断する必要があります。
〇翌期(翌年)に大きな設備投資がある場合や業績悪化による赤字となってしまう場合には、原則計算で計算した場合に還付となる可能性があります。
簡易課税制度では還付は受けられませんので、留意が必要です。
税理士が損害賠償を受けた事例の中で、簡易課税制度が多いのはこの理由が原因です。
納税者の認識では、還付を受けられると思っていたのに、簡易課税制度が有効であったため還付が受けられない。
税理士の説明責任や届出書の提出ミスに対して損害賠償が起こされます。
要注意事項になりますので、このことだけでも頭に入れておいて頂ければ幸いです。
【執筆後記】
お盆休みで妻と息子が実家に帰っています。私は仕事で準備や今後の計画を練っています。
大田区蒲田の「濱野純税理士事務所」
高付加価値なサービスをリーズナブルな料金でをモットーに、主に個人事業主様・中小企業の社長様向けにサービスを提供しております。お気軽にお問合せください。
・事務所ホームページはこちら
・代表プロフィール 事務所の特徴
【税務メニュー】