売上を伸ばすために、販売子会社や取引先に販売奨励金や販売促進費を支出する場合があります。
販売子会社等にとっては、受け取った販売奨励金を基に売上向上策を講じ、実際に売上が上がれば、仕入先である販売奨励金を支払った会社においても売上があがることになり双方にメリットがあります。
今回は海外に子会社を持つ会社の事例を基に、販売奨励金・販売促進費の税務上のポイントを考えていきます。
【販売奨励金・販売促進費に関する事例の前提】
・当社は日本国内で製造業を営む会社です。
・タイに所在するB社は、当社の販売子会社で当社の製品をタイにおいて販売しています。
・B社は製品の一部を展示品として使用し、販売促進をしています。
・昨今、タイにおいては当社製品のシェアが低下しており、販売を促進するようなテコ入れを必要としているところです。
【販売奨励金・販売促進費の事例・ご相談内容】
・当社はタイでの販売を促進するために、B社が展示品として使用した製品に対し値引きを行い、展示品値引金額についてB社に送金をしようと思っています。
・狙いはタイでの新モデル展示台数の増加を促すことで、現地での販売増加(当社の輸出の増加)としていきたい。
この場合に、値引額としてB社に送金する金額は税務上損金として算入可能でしょうか。
【ご回答】
上記支出した金額は、販売促進を目的とした特定の地域の事業者に支出される販売奨励金等として、損金の額に算入可能であると考えられます。
租税特別措置法通達61の4(1)-7には以下のように記載がされています。
租税特別措置法通達 61の4(1)-7 (事業者に金銭等で支出する販売奨励金等の費用)
法人が販売促進の目的で特定の地域の得意先である事業者に対して販売奨励金等として金銭又は事業用資産を交付する場合のその費用は、交際費等に該当しない。ただし、その販売奨励金等として交付する金銭の全部又は一部が※61の4(1)-15の(5)に掲げる交際費等の負担額として交付されるものである場合には、その負担額に相当する部分の金額についてはこの限りでない。
※61の4(1)-15の(5)に掲げる交際費等の負担額
製造業者等その製品又は商品の卸売業者に対し、当該卸売業者が小売業者等を旅行、観劇等に招待する費用の全部又は一部を負担した場合のその負担額
上記の通達を参考にすると、販売奨励金として損金に算入する上での判断のポイント、留意点としては以下が考えられます。
ポイント・留意事項
○メーカー等が自社製品の販売戦略のため、特約店、小売店等を使って広告宣伝や販売促進活動をするための費用の補填として支出されるものであること。
○同業者との販売競争が激しいため、自己の商品等の販売を促進する必要がある特定の地域であること。
○販売促進のためという明確な交付理由があること。
〇貴社が主導となり販売促進計画に基づき一定のルールのもと交付されるものは販売奨励金として損金に算入が可能であると考えられます。
一方で、外国子会社等が要望してきたものを無条件に交付するものは、単なる資金援助であるとして寄附金に該当する場合があります。
従って、販売促進計画や一定のルールを定めた契約書等がエビデンスとして有用であると考えられます。
○販売奨励金としてではなく、売上割戻し(合理的な理由がないもの。)や価格調整金等とみなされた場合には、国外関連取引に係る対価の額を事後に変更しているとされ、移転価格税制による課税や寄附金課税が生じる可能性があります。
そのため、販売奨励金であるという合理的な理由(支払理由、事前の取決めの内容、算定の方法等)を上記で記載したエビデンスと共に残しておくことが肝要であると考えられます。
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