前払費用は原則としては、必要経費や損金とすることはできません。
ただし、一定の1年以内の役務提供に係る短期前払費用については、いわゆる期間対応による繰延経理をすることなく、その支払時点で必要経費や損金に算入することが認められています。
短期前払費用の特例を用いれば、経理処理を簡便化させることができ、状況に応じて節税することが可能です。
前払費用とはどんなものか
前払費用とは、勘定科目の一つであり、法人や個人が一定の契約に基づき継続的に役務の提供を受けるために支出した費用のうち、その事業年度終了の時(その年の終了の時)において、まだ提供を受けていない役務に対応するものをいいます。
【例】3月決算の法人の場合
■3月に向こう一年分(4月から翌年3月まで)の賃借料を支払った。
→翌期の4月から3月までの費用の支払いになるため、「前払費用」として資産に計上することになります。
前払費用は、原則として、支出した時に「前払費用」という勘定科目を用いて資産に計上し、役務の提供を受けた時に損金や必要経費の額に算入すべきものです。
短期前払費用は必要経費や損金に算入可能
前払費用のうち、その支払った日から一年以内に提供を受ける役務に係るもので一定の要件を満たすものを「短期前払費用」といいます。
次の要件を満たす「前払費用」については、「短期前払費用」として、その支払った日に損金や必要経費に算入することができます。
要件
・一定の契約に基づき継続的に(等量・等質)役務の提供を受けるための費用であること
・支払った日から1年以内に提供を受ける役務に係るものであること
・継続してその支払った日の属する年度の必要経費や損金の額に算入していること
・重要性の原則に則ったものであること(金額が極端に大きいものは対象になりません。)
・費用と収益が対応するような費用でないこと
上記の要件を満たすものであれば、支払った日に最大1年間分の費用を、必要経費または損金の額に算入することができます。
このような短期の前払費用の処理は、会計の考え方である「重要性の原則」に基づく経理処理ということになるのですが、税務上の考え方も同様の立場に立っていると考えられます。
重要性の原則とは
企業会計は定められた方法で正確な計算を行いますが、その目的は、投資家など利害関係者の判断を誤らせないようにすることにあるので、重要性の乏しいものについては、簡便な方法での処理が認められています。
このことを「重要性の原則」といいます。
短期前払費用の注意点・否認事例
短期前払費用における注意点や否認されてしまう事例として以下のものがあります。
支払時から1年を超える期間を対価支払の対象期間とするものは対象にならない
短期前払費用の特例を用いる場合には、支払った日から1年以内に提供を受ける役務に係るものであることが必要です。
例えば次のような場合には、短期前払費用として必要経費または損金の額に算入することはできません。
EX. 年1回3月決算の法人の場合
期間10年の建物賃借に係る賃料について、毎年、家賃年額(4月から翌年3月)1,000,000円を2月に前払により支払う。
→支払った日から1年以内に提供を受けるものではありませんので対象外となります。
等量・等質のサービスでない費用は対象にならない
短期前払費用の特例を用いる場合には、継続的に役務の提供(等量・等質)を受けるための費用であることが必要です。
つまり、毎月のサービスが一定の内容でないものは対象とはなりません。
例えば、税理士の顧問料やプリンターの保守料などは、その内容が毎月等質・等量とはいえないので短期前払費用の適用対象外となります。
収入との直接的な対応関係にある費用は対象にならない
原則として費用の計上時期を考える際に、費用と収益は対応させることが必要になります。この原則について、短期前払費用の特例では、先に説明した「重要性の原則」により支出時の必要経費または損金とすることを認めることとしています。
そのため、費用と収益が密接に関係しているような費用については、短期前払費用の対象外となります。
例えば、不動産を転貸をしているような場合で、受取家賃は毎月ごとに収益に計上しておきながら、1年分の支払家賃のみを短期前払費用として支出時の必要経費または損金とすることはできません。
未払いとしているものは対象とはならない
短期前払費用となるものは、支出することが要件とされていますので、実際にお金を払っていない場合には対象とはなりません。
短期前払費用に「なるもの」と「ならないもの」【等量・等質の具体例】
短期前払費用となるものの具体例をみてみましょう。合わせて対象とはならないものについても確認します。
短期前払費用になるもの具体例【等量・等質のサービス】
- 地代家賃
- 賃借料
- 保険料
- 借入金利息
- 月払いの会費
- リース料
短期前払費用にならないもの【具体例】
- 顧問料
- 保守料
- 雑誌の購読料
- 転貸物件の前払家賃
短期前払費用による節税効果と注意点
短期前払費用の特例を用いれば、1年分の費用を支出時に必要経費や損金に算入することができるため、一時的には所得を減らすことができます。
しかし、次のようなことに注意が必要です。
節税効果は支出することとした初年度だけである
支出した初年度は1年分を費用にすることができますが、継続適用が求められますので、次年度以降も同様に支出時に1年分を費用にする必要があります。
そのため、初年度は節税効果が認められるものの、次年度以降は通常の1年間分の費用が続くことになり、原則的な処理をした場合と変わりません。
1年分の費用のお金を支払う必要がある
月額で支払う場合と年額で支払う場合を比較すると、資金繰りを考える上では、年額で支払う場合の方が資金繰りが厳しくなります。
節税のためだけに、多額の資金を早期に支出することは資金繰りの上では、得策であるとはいえません。
短期前払費用の有効な使い方
短期前払費用の特例は、処理の簡便化を目的としており、節税といった面では効果は限定的です。
しかし、例えば法人税では、所得金額の年800万円を超える部分を抑えるために利用する場合や、所得税では、累進税率を抑えるために利用するといった場合等は、効果が大きい可能性があります。(それでも支払い初年度だけの効果になります。)
効果的に使うためには、所得の綿密なシミュレーションが必要になるため、税理士等の専門家にご相談されることをお勧めいたします。
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